シャワーを浴びて
今日のコーディネートは原宿の古着屋で買った黒のシンプソンズTシャツに黒のワイドパンツ。それでもって左手には小説を携えていた。「シンプソンズ着る人は本なんて読まないよ。」そんな声が頭のどこかから聴こえた。
駅の入り口で強めに躓いた。脳が少し前にズレた感覚がして、奥にしまってたセンチメンタルシングスがどっと暇を潰した。
今日の反省は、平気な顔で「みんなはあまり言わないけど、お前は可愛いよ。」と女友達に言ったことと、リフレクソロジー嬢をやっている中学時代の友人に「お前は不安がましい」と言ったこと。
なんで好きでもない人に優しくするんだ。
最寄り駅に着いて一番に改札を抜けて階段を登る。今日は気分が落ちてるから違う道で帰ってみよう。誰もいない道を歩いて、今日は誰にも会いたくない日だ、と改めて思う。
商店街を歩くと深夜0時前なのに、白黒のパグを散歩させる芸能人のプライベートみたいなファッションの飼い主とか、大声で通話しながら自転車に乗るアジア人とか、それくらいしかいなかった。
上京してきてから一年が経つけど、俺はこんなに弱くなかったと思う。いつも明るくて、嫉妬するとすぐ表情や態度に出る子供みたいな性格のくせに、見栄っ張りだから知ってることは全部自慢げに喋ってしまう。かつてはそうだった俺が今はあまり喋らなくなって、言葉や話題を慎重に選ぶようになった。’’大人になった’’と言えるかもしれないけど、もしそういうことなら息苦しい。こんな他人以上に自分を気遣って、秘密は秘密にして、悲しい時は我慢してって、だったら俺はずっと子供のままがいい。
シャワーをいつもより高い位置に留めていつもより長い時間浴びていた。毎日お風呂に入る時、こんな悩みも一緒に洗い流して下水と混ざっちゃえばいいのに。